「靴を探して」 作演出:藤井清美
女性なら誰でも経験のあることだと思うが、痛い靴で歩くほど辛いことはない。「頭が痛い」とか「お腹が痛い」とはまた違うあの痛み。辛さ。いっそ靴を脱ぎ捨てて歩いて帰ろうかと思ってしまう。「じゃあ、そんな靴、初めから買わなければいいじゃないか」と男性は思うに違いない。「そりゃそうなんだけど・・・」と答えつつ、女性は思う。「だってこの靴かわいいし、ここまで痛くなるなんて思ってなかったし・・・それに、そんなこと言うなら男だって汗染み作ってまで夏にジャケット着なきゃいいのに」
辛いからといって、何でも放り出せるわけじゃない。それが大人というものだったり、社会で生きるということなのかもしれない。
でも、靴にはもっと何か、大人の事情というよりももっと生々しい欲望が隠れているような気がする。
高級店の店員は、客の靴を見て経済状態を量るという。靴は履いている人の背の高さを変え、足の長さを変える。身に着けることで簡単に体型を変えて見せる唯一のものだ。かつてある人質事件のとき、日本人の人質は床で眠るとき靴を脱ぎ、脱いでくれない欧米人の人質にストレスを感じた。だが、欧米人の人質にとって、「靴を脱ぐこと」は「チャンスが訪れたとき逃げる手段を失うこと」だった。だから彼らは断固拒否した。
靴、靴、靴、靴・・・・そこに隠された意味から今の大人たちの事情を覗いてみる。そんな芝居にしたいと思っている。